職組情報

2018職組情報No.23【山形労委平成27年(不)第1号山形大学不当労働行為救済申立事件命令書発令に至る経緯とその意義
2019.1.29

  
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      ◆◆◆ 山形労委平成27年(不)第1号山形大学不当労働行為救済申立事件
                        命令書発令に至る経緯とその意義  ◆◆◆

                                    
                                    2019年1月29日

                                     山形大学職員組合

1.はじめに

 平成31年(2019年)1月15日、山形県労働委員会において、山形大学職員組合が救済を申立てていた下記の2つの事項に関する国立大学法人山形大学の不当労働行為(不誠実交渉)が認定され、山形大学に対して、職員組合との誠実な団体交渉を行うことを求める命令書が交付されました。

(1)平成27年1月1日からの55歳超の教職員の昇給抑制

(2)平成27年4月1日からの給与制度の見直しによる賃金引下げ

これは、上記事項に関する組合側の主張の主な部分を全て認めている点で、今後の大学法人と組合との間の賃金交渉等において、大きな意味を持つものです。そこでここでは、この命令書交付までの経緯について大まかに報告するとともに、その意義について簡単に述べます。公文書との対応関係の把握を容易にするため、年号には基本的に元号表記を使用します。

 

2.救済命令までの経緯

事の発端は、平成26年(2014年)8月の人事院勧告に追随して国立大学法人山形大学が打ち出した賃金引下げでした。山形大学職員組合は同年11月26日以降、大学法人側とその撤回を求めて交渉を始めました。しかし、大学法人側は組合側の反対を押し切り、平成27年1月1日からの1号俸の昇給抑制を実施し、同年4月1日から給与制度の見直しによる賃金の引き下げを一方的に実施しました。

 

そのため組合側は、平成26年11月1日にやはり一方的に実施された職務発明規程の改定と平成27年1月1日に強行された55歳超の教職員の昇給抑制とともに、合計4件の大学法人側の不当労働行為の救済申立を、平成27年6月22日に山形県労働委員会に対して行いました。いずれについても、労働組合法第7条2号の定める誠実交渉義務に大学法人側が違反していることをその理由としています。

 

ここで職務発明規程に関しては、特に申し上げておかなければならないことがあります。職務発明規程の改定に関しては、組合側はその見直しを求めて、既に平成26年11月26日にあっせんの申立を山形県労働委員会に行っていました。ところがあろうことか、山形大学の教職員はおろかあっせんの当事者である職員組合にも全く通知されないまま、同年11月1日(この日以降も、山形大学のHP上には改定される前の職務発明規程が掲載され続けていました。)に既にその改定が大学法人によって強行されてしまっていたことが、同年12月3日の県労働委員会からの知らせで後から判明したのです。そのため組合側は急遽、あっせん事項を「誠実交渉」「運用保留」「労使双方の関係者で再検討すること」に変更することを余儀なくされ、最終的に平成27年(2015年)3月4日にそのあっせんも不調に終わっていました。しかもさらに驚くべきことに、職員組合による上記県労働委員会への救済申立後の同年9月9日、大学法人側は改定したはずの職務発明規程をひそかに旧規程に戻していたのです。このことは、県労働委員会から大学法人側の答弁書が出されたとの連絡を受けた職員組合が大学法人側に照会した結果、同年9月30日に回答を受けて判明しています。大学法人側が組合側に対して如何に不誠実な対応を行ってきたかは、こうした経緯だけからも明白でしょう。

 

上記救済申立に関する第1回委員調査は平成27年11月30日に山形県庁で行われ、それに続く平成28年(2016年)3月11日の第2回委員調査で、山形県労働委員会から和解の勧めがありました。組合側はこれに応じて、労使交渉に関わる労働協約を締結することによって大学法人側と和解する方向で、県労委の仲介による和解手続に入ることに同意しました。労使間の対立を徒らに長びかせることなく、できるだけ早期にこの問題を解決するために、組合は穏やかで現実的な対応を選択したわけです。

 

まず平成28年7月4日に県労委の第1回和解手続が開催され、そこで組合側から労働協約に関する新提案を同年8月17日までに行った上で、9月27日開催の第2回和解期日以降に協議を続行することが決まりました。組合側の提案への法人側からの修正案は同年9月15日に提出されました。以後、和解協議は第3回(12月7日)、第4回(平成29年3月1日)と行われ、平成29年3月15日付で県労委より、締結されるべき労働協約案における次の2点の検討事項が示されました。

 

検討事項の第1は、「大学施設等の利用について」です。大学法人側がその修正案で「山形大学資産管理事務取扱規程」と「山形大学施設一時使用細則」に沿って組合事務所等を扱い、その施設利用に伴い発生した光熱水料等の実費相当額の負担を組合に求めるとしたことに関するものです。因みにこの時点まで、大学法人側は光熱水料の実費相当額の負担を組合側に求めるということをしてきませんでした。検討事項の第2は、「団体交渉の合意について」です。大学法人側が、団体交渉の合意事項を明記した合意書を作成するという組合側提案の条文を拒み、単に合意事項を遵守するという条文にすることを提案したことに関するものでした。大学法人側による労働協約案は、以下のような点で極めて特異なものであり、当初組合側はこれらを受け入れることは出来ないという基本的立場を示しました。

 

検討事項の第1は、そもそも、当初の救済申し立ての内容(賃金問題に関する不誠実交渉)とは直接関係のない事柄を法人側が新たに持ち出してきたことに関するものです。これは、賃金交渉に関する和解協議の場に全く別の案件を持ち込むことで、双方の利害対立の構図を拡大することに他ならず、申し立ての内容に関する和解の成立を阻むものでしかありません。また検討事項の第2は、団体交渉における合意事項を文書にして明確にするという、ごく社会常識的な取り決めを大学法人側が拒んでいることに関するものです。しかもそれを拒む理由ついて、大学側からはなんら納得のいく説明はなされませんでした。大学法人側は団体交渉における合意事項の法的拘束力の減殺を企んでいた、としか常識的には考えられません。

 

しかし、県労委側から和解の方向を更に強く勧められ、かつ、大学側の労働協約案にも「必要な資料を提供する」などの規定があることから、組合としては、県労委の示した検討事項に誠実に対応し、可能な限りの妥協をしてでも和解する方向で協議を進めることにしました。具体的には、検討事項の第2については、合意書作成については協約案に記載せず、合意事項の遵守の事項を設けることで同意する。検討事項の第1については、光熱水料の支払いについては負担を前提として今後の交渉を行うこと、ただし、法人側の示した規程や細則は、学外者に貸し付けることを対象としたもので、組合を学外者と同様に扱うことをしないことを明確にすることを求めることとしました。平成29年(2017年)5月29日の第5回手続では、県労委の労働者側委員から、大学法人側は職員組合を学外者と取り扱う意思はなく部屋の使用料を徴収する意思もない、と告げられていましたが、当日は協議時間切れとなったため、第6回手続(8月29日)において、引き続き検討することになりました。

 

ところが、その第6回和解手続(平成29年8月29日)において大学法人側は突如態度を翻し、「組合を学外団体として扱」い「組合室及び施設の利用について使用料を負担する」という主張をしてきたことから、第7回(10月2日)の和解手続を行ったのですが、最終的に大学法人側はその主張を変えず、そのため、この和解協議は最終的に不調に終わりました

 

それまでの和解手続で、組合側は常に県労委が提示した検討事項に誠実かつ真摯に対応してきました。そのため協議においても、申立人(組合側)と県労委との協議時間よりも被申立人(大学法人側)と県労委との協議時間の方が(おそらくは大学法人側の説得のために)、ずっと長くなっています。大学法人との労働協約についても、実質的な争点での大学法人側との交渉を進めることを方針として、妥協できる限りの妥協をしつつ、その協議に前向きに応じてきました。しかし、大学法人側のあまりにも不誠実な対応と、和解を勧める山形県労働委員会の姿勢が、大学法人側の頑迷な姿勢には目をつぶり組合側にばかり妥協を求めるように徐々になってきていた状況に鑑み、組合としては和解不調もやむなしと判断したわけです。

 

 この和解不調で、本不当労働行為の救済申立は再び委員調査の場に戻りました。そこで次の委員調査に臨むべく、平成29年11月6日に申立人(組合)代理人である佐藤欣也弁護士並びに田中暁弁護士と、組合執行委員、申立補佐人らの間で協議を持ちました。その結果、審理を促進するため、当初の4件の申立事項のうち平成28年2月23日に既に申立を取り下げていた平成27年1月1日からの1号俸の昇給抑制の件に加えて、職務発明関連規程の改定の件についても申立事項から取り下げることになり、平成29年12月11日に取り下げました。これは大学法人側が以前に改定を強行した職務発明関連規程を、自ら改定前のものに復したことに加え、その再度の改定の予定もないことを表明したため、今後も大学法人側から不誠実な対応がなされることへの懸念はあるものの、申立の直接的な必要性はなくなったと判断したからです。

 

 しかし、残り2件の申立事項である、55歳超の教職員の昇給抑制および給与制度の見直しによる賃金引下げは、それが今後も組合員に不利益を与え続けるものであり、既に時効となってしまっている過去の給与削減分の回復を求める交渉のためのものではなく、今後の就業規則の不利益変更続行の撤回を求める交渉のためのものです。黙って取り下げれば、そうした将来の不利益をも甘受するとの姿勢を表したものと解しされかねません。そこで、これらの2つの事項に関してだけは、引き続き大学法人側に対して組合との誠実交渉を命じる救済命令を求めていくことになりました。

 

 委員調査再開後、平成29年12月19日の第3回委員調査と平成30年(2018年)3月1日の第4回委員調査を経て、3月30日に第4回委員調査調書提示があり、これに従って組合側が4月27日に、大学法人側が5月1日にそれぞれ陳述書を提出しました。そして平成30年6月5日に第1回人証審問が山形県庁10階1001会議室で行われました。

 

 証人として、組合側からは品川敦紀執行委員長、足立和成執行委員、大学法人側から北野道世元理事、阿部宏慈理事が証言台に立ちました。この救済申立における主たる争点は、将来にわたる賃金削減という極めて重大な労働条件の不利益変更を一方的に強行できる程の労働契約法上のその「高度の合理性」(同法第9条、第10条に関する判例)を、大学法人側が組合側に誠実に説明してきたか否かにありました。そのため審問では、交渉の過程において組合側が大学法人側にどのような要請を行ってきたのか、それに対して大学法人側がどのような対応をし、将来にわたる賃金削減に経営上妥協の余地が全くないことを組合側が納得できるような説明をしてきたのかについて、申立人(組合側)代理人と被申立人(大学法人側)代理人そして山形県労働委員会が、各証人をそれぞれ尋問しました。この不当労働行為の救済申立での個々の争点についてはここでは詳しく述べませんが、組合側が大学法人側に対して求めてきた賃金削減の財務上の必要性の「定量的」(数値的)な根拠が、大学法人側から十分に示されていたか否か、という点が上記に関する判断の最大の焦点になったことは間違いありません。

 

3.この救済命令の持つ意義

そして平成31年1月15日に、冒頭で述べた命令書が山形県労働委員会から国立大学法人山形大学に対して交付されました。その判断理由として命令書が述べていることは、まさしく賃金削減の財務上の必要性を大学法人側が十分な「定量的」根拠とともに説明してきていない、ということに尽きます。その意味で、この命令書は、基本的な点で組合側の主張を認めており、十分評価に値する決定だと考えられます。

 

特にこの命令書の27頁で、教職員の給与を人事院勧告に準拠して決定すべき法的根拠として大学法人側が主張している改正前の独立行政法人通則法第63条3項の規定に関して、「当該規定が、大学が主張するごとく、国家公務員の給与を基準とすることを求めていると解することは困難であ」り、それを「『55歳超の教職員の昇給抑制』及び『給与制度見直しによる賃金引下げ』を実施する理由とする大学の主張は採用できないし、大学がなすべき前記本件不利益変更の必要性及びその変更内容の適正さについての説明義務の程度を特段に軽減する根拠とすることもできないと解するべきである。」としている点は重要です。大学法人側が、財務上の必要性に関する明確な「定量的」根拠を示すことなく、人事院勧告準拠を理由として教職員の給与を一方的に削減することは、その勧告準拠の法的理由が否定された以上、直ちに不当労働行為と認められるべきものになったからです。

 

 また、この命令書の30頁では、「組合主張のとおり、」「55歳超の教職員の昇給抑制を実施しなかった場合に、大学の財政にどのような影響を与えるのか、将来の財政予測上も大学の財政が耐えられない見通しであるのか、昇給抑制年齢を55歳より遅らせた場合に大学の財政が破綻するおそれがあるのかどうかなどといった点に関し、大学の財政への影響額に関わる情報を読みとることは困難といわざるを得ず、したがって、適切で具体的な資料が十分に提示されたとはいえないと解するのが相当である。」とされ、「給与制度見直しによる賃金引下げ」についても同様な判断が下されており(命令書33、34頁)、いずれについても大学法人側の不当労働行為が認定されています。こうした点に関しては、組合側の主張が全面的に認められたといってよいでしょう。

 

命令書同頁クの項で「念のために付言すれば」として、「大学の年間予算規模に相当する、少なくとも年商規模400億円の事業会社であれば、組合側からの具体的な要求がなくとも、使用者側から進んで相応の財務情報や将来予測資料を提示し、組合の理解を求めるのが通常と思われ、こうした誠実な対応こそが使用者に求められる交渉態度であろう。」と述べられているのは、世間一般が考えるところの労使交渉における経営者側のごく常識的な対応を、山形県労働委員会が大学法人側に求めているということでしょう。これは推察に過ぎませんが、県労働委員会における経営者側委員の意見が反映されている側面があるのかもしれません。

 

 ただこの命令書についても、気をつけるべきことがあります。命令書33頁のイの項で「大学においては、運営費交付金収入が毎年減少することに対処する方法としては、人件費削減に踏み込む以外にないことが認められ」るとされていることです。国立大学法人会計基準は、その第21で明確に「収益」という概念を定義しており、国立大学法人法の枠内なら新たな収益事業を営むことができます。またその第84では、減価償却に充てるための収益が予定されない事業のために取得する償却有形固定資産については、その減価償却費の積み上げが免除されています。従って、こうした場合に国立大学法人にできることが人件費削減だけであったとする県労働委員会の認識は、国立大学法人会計基準に照らすならば正確とは言えません。もし県労働委員会の認識が無条件に正しいとすると、国立大学法人が収益性の判断を誤って行った事業の損失を、賃金の削減で補填することが正当化されてしまうからです。国立大学の財務に関する上記のような誤解は、未払賃金訴訟における裁判所の判断の誤りにも通底するものであり、さらに山形大学に設置されようとしている重粒子線治療施設の事業の収益性が問題になったことを考え合わせると、看過できないものです。

 

 一方、この命令書はその37頁の「第5 救済の方法」において、組合側の交渉態度についても「一度は同意しながら、当然のごとく錯誤無効を主張したり、大学側の勘違いないし理解不足をただ非難ないし揶揄する対応が見られたこと、及び、団体交渉に際して要求する資料の説明において具体生を欠」くなどの問題があったとし、「今後、適正な労使関係を樹立するためには、組合側も態度を改める必要がある」と述べています。長期間の労使交渉の現場における大学法人側担当者の交渉態度に大いに問題があったとはいえ、こうした指摘を県労働委員会から受けてしまったことについては、職員組合として真摯にこれ受け止め、かつ謙虚に反省すべきでしょう。今後の交渉にあたっては、大学法人側の主張に誤りがあった場合もそれを丁寧に指摘するとともに、要求すべき事柄については、必要な専門知識を持ち合わせていない相手にも理解できるような懇切な説明を心がけるべきだと考えます。

 

 容易に理解して頂けると思いますが、この命令書の意義は、単に山形大学における労使交渉に関するところに留まるものではありません。類似の問題を抱えた他の国立大学における労使交渉にも大きな意味を持つことになるでしょう。

 

4.健全な労使関係の構築向けて

 今般の救済命令は、山形大学おいて、健全な労使関係を構築し教職員の正当な利益が守られる組織体制を打ち立てる上では、最初の小さな一歩に過ぎません。国立大学法人山形大学がこの命令だけによって労使交渉におけるその姿勢を直ちに全面的に改めると考えることは、あまりにも早計かつ非現実的でしょう。ですから山形大学職員組合は、この命令書の指摘に従い、労使交渉に関する世間一般の常識に則った誠意ある対応をすることを、今後も大学法人側に粘り強く継続して要求していくことになるでしょう。特に教職員の日常生活並びに人生設計に多大の影響を与える賃金問題、とりわけ将来にわたって給与水準に影響を与え続ける給与表の問題に関しては、将来の財務諸表の予測などを含む財務構造の詳細な検討結果を踏まえた明確な定量的根拠の提示を求めるとともに、救済命令が出された事項については直ちに組合との再交渉に応じるよう要求していきます。

 

その再交渉において、今般の命令書にも述べられているように、定量的な根拠を示すことなく「人事院勧告に準拠する」方針であるといった回答のみを繰り返すことは即ち不誠実交渉(不当労働行為)となることを、大学法人側は深く自覚すべきです。もし、大学法人側があくまでもそれを自覚しようとしないのであれば、県労働委員会への再度の不当労働行為の救済申立て、山形県労働局への告発、もしくは刑事・民事の裁判等に訴えることも、職員組合としては必ずしも忌避するものではありません。

 

以上

 

 

 

 




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